今日は当院で、経験させて頂いた、やや珍しいタイプの胃がんについてです。
野田市の胃がん検診で要精密検査で、当院受診された70歳代 男性の方です。
自覚症状は特にありませんでしたが、後日行われた内視鏡検査では、図1のように、胃前庭部という、胃の出口に近いところに比較的深い潰瘍を認めました。潰瘍表面には黒い色調があり、出血していた事が伺われます。
図1 1回目の内視鏡所見
所見から、胃潰瘍の急性期、又は胃がんと診断し、プロトンポンプ阻害薬(胃潰瘍の薬で胃酸を強力に抑えます)を処方し、生検の結果を待ちました。
生検の結果は、胃潰瘍で矛盾の無いものでした。しかし、あれだけの深堀りの潰瘍でありながら、自覚症状がないことに違和感を感じ、内視鏡所見で潰瘍辺縁がやや不整であることと、ひだが途絶にも見える等、悪性を疑わせる所見を認めたため、2週間後に再検しました。
その時の画像が 図2,3
です。
図2 2回目の内視鏡所見
図3 2回目の内視鏡所見(近接)
潰瘍は改善傾向にあるようにも見えますが、潰瘍の5時方向に見えるひだの太まりが目立ちます。ひだの途絶もはっきりしております。
生検の結果は、やはり胃がんでした。(signet ring cell が認められる低分化腺がん)
直ぐに病院に紹介して、オペとなりました。
signet ring cell とは日本語では印環細胞といいます。顕微鏡で見たときに、細胞の核が、細胞内の粘液に追いやられて端に移動して、あたかも印付きの指輪のように見えることから名付けられました。癌の中でも比較的悪性度の高い癌で、スキルス癌のような経過をたどることもあります。
この方の場合、ステージⅠと早期で見つかったこともあり、経過も良好で、本当に良かったです。
内視鏡所見や経過から何か違和感を感じた時は、生検の結果を鵜呑みにせず再検査をする、ということはとても大切だと改めて教えられました。(でも、何でもかんでも再検査するのは困りもので(辛い検査ですからね。)、そこら辺の匙加減というか、バランスが難しいです。)